普通、「だし」は温かいと香りが増して、おいしく感じます。
例外はあるかもしれませんが、どんな料理でも、ほとんどの場合、「だし」を温めて出すと思います。
ところが、そばのもりつゆは、冷たいです。
わざわざ、冷蔵庫で冷やしてから出します。
なぜ、かつお節のだしの香りを犠牲にしてまで、冷やして出すのか。
本当に冷やした方がおいしいのか。
常温で置いたもりつゆを使うと、特に夏場の気温が高い時期に、多少、違和感を感じることがあります。
なので、当店では、そば徳利を常に冷蔵庫で冷やしておいて、蕎麦を出す直前に、冷蔵庫から出して提供するようにしています。
温度ともりつゆの関係を考えながら、ふとそのことを思い出しました。
実際に、もりつゆの温度を変えて、試食してみたいと思います。
- 人間が快い温かさと感じる温度は、体温の25℃以上で、62~70℃くらいにするとうま味を感じやすくなる。
- 冷たいものであれば5℃~12℃とされています。
- 味覚は30℃くらいが、一番敏感になる。
- 人間の舌が敏感になって、おいしさを感じるのは、体温くらいだそうです。
- 温度が高いと「うま味」、「塩味」、「苦味」を感じにくくなり、逆に、温度が低いと感度が高くなる。
などなど、いろんなことが書かれていてわかりにくいので、当店のもりつゆを使って、それぞれの温度にして、順番にやってみます。
まずは、”5℃”から。
つゆだけ一口なめてみると、しょう油が強いようには感じません。
それほど、冷たさが際立つわけではなく、ちょうどいい温度で、だしの香りは弱い気がしますが、まろやかなうま味があって、バランスがいいと思います。
次に”30℃”。
一口なめてみると、温度は少しぬるめです。
表現が難しいですが、かつお節のだしのうま味なのか、香りやおいしさが強い気がします。
冷たいときよりも、しょう油の強さが増します。
次に”60℃”。
60℃になると、温かいを通り越して、熱くなります。
温度が高くなるにつれて、しょう油が濃く感じるようになって、しょっぱいです。
通常、温度が低い方が、塩味が強くなるらしいのですが、しょう油=塩味、ということではないのでしょうか。
ただ、だしの香りもうま味も濃く感じます。
結果、つゆ自体のだしの香りとうま味は、実は、30℃にしたときが一番濃い気がしました。
同じつゆを使いましたが、温度によって、それぞれ、全く違う味になります。
問題は、これらが、そばと一緒に食べたときにどうなのか。
冷たくして美味しくなるように作っているので、やっぱり、”5℃”の冷たいつゆで食べるそばが、一番おいしいです。
つゆの温度を下げて、冷たくしすぎると、うま味が薄れてしまうので、5℃くらいが適温に感じました。
母親は、温かいつゆがお気に入りで、最近はつゆを温めてそばを食べています。
人によって感じ方は様々で、全くの私見ですが、つゆを美味しくするために、もりつゆを作っているわけではなく、そばを美味しく食べるために、もりつゆを作っているということです。
あくまでそばが主役、もりつゆはそばの引き立て役。
そもそも、江戸時代、そば切りが始まったころは、もりそばのもりつゆは、香りを意識してだしを使っていたわけではなく、みそ汁のようなものや、だしを使わない精進汁のようなものを、つけ汁にして食べていました。
この時代、つゆを冷やすことはできないでしょうから、常温で食べていたはずです。
30℃くらいの温度が、一番かつお節が香る気がしますが、そばを食べるときには、多少邪魔になってしまいます。
だしを使ったもりつゆを、江戸時代に”なまぐさ汁”と呼んでいた意味が、何となく分かった気がします。
何度か試食してみましたが、感じ方は変わりませんでした。
熱い方がしょっぱく感じたので、つゆを鍋に入れて直接火にかけないで、湯煎で60℃にしてみましたが、こちらも感じ方は変わりませんでした。
かけつゆを65℃にして、かけそばにもしてみました。
さば、宗田、昆布、しいたけ、他のだしでやってみると、結果は違うのかもしれません。
そばやだし、他の物にも、おいしく食べる適温があります。
複雑で難しい。
頭の中がいっぱいで、文章にするのも難しい。